2023年の活動

2023年1021-22日 ホネホネサミット2023に出展しました。

ホネホネサミットとは、博物館や大学などで骨格標本を作製している団体や個人の、交流情報交換を目的としたイベントです。博物館や骨格標本の愛好家が全国から集まり、自分たちの作った標本や活動内容を紹介してホネの魅力や博物標本の意義を多くの人に知ってもらうことも目的としています。2003年から始まり、8回目となる今回は大阪市立自然史博物館にて開催されました。FSNも出展し、漂着したアカボウクジラの全身骨格、ザトウクジラの右胸鰭、マッコウクジラの交連骨格作成過程で出た椎骨の中心部を展示しました。

関西NHKニュース
www3.nhk.or.jp/kansai-news/20231022/2000078910.html 

二日間合計の来場者は5000人に上り、FSNのブースも多くの方にみていただきました。立ち寄った方に実物の鯨骨に触れてもらったり、骨格標本の作製者と鯨類骨格の標本作成方法について情報交換をしました。

主催である大阪市立自然史博物館は、過去に大阪湾で発見された漂着鯨体の標本化に取り組んでおり、複数の鯨類骨格が所蔵されています。ストランディング対応の困難さをよく知る博物館関係者となにわホネホネ団にはFSNの設立理念がよく伝わったと思います。同時にFSNの技術や実績にもご感心をいただきました。

今後もストランディング鯨類の調査研究の重要性、ストランディング対応事業の周知を目指して、さまざまなイベントに参加していきたいと思います。

2023年9月30日 東京の国立科学博物館、台湾の国立成功大学の鯨類学者が視察に来ました。

FSNには鯨類の骨格標本を作製する国内でも有数の工房があります。先日、国立科学博物館(上野)の山田格博士と国立成功大学(台湾)の王建平教授が視察に来られました。

山田博士にはストランディング対応で何度もお世話になっています。死亡したクジラの調査・解剖だけでなく、骨格標本の正確な復元に関しても学術的・解剖学的な見地からアドバイスをいただいています。
台湾の成功大学海洋生物研究センターは鯨類の研究や保護に長年取り組んでおり、王教授も鯨類の解剖学やストランディングを研究されています。FSNの代表も以前に台湾の鯨類レスキューセンターに視察に行ったことがあります。

今回は富士市にあるFSNの工房と倉庫、鉄鋼加工所のサンアイ工業さんを見学されていきました。鯨類は、小型とされるサイズでも100kg、200kgを越えることがざらにあります。それだけ大きな骨になると、きれいな骨格標本を作るにはそれなりの晒骨槽が必要です。また骨格標本になった後も、長く展示するにはきちんと強度を計算した架台を作る必要があり、鉄鋼加工の技術が欠かせません。
FSNはこれからも研究者や博物館、展示施設のニーズに応える技術を提供していきたいと思います。



2023年6月10–11日 日本セトロジー研究会佐世保大会に参加してきました。

6月10日から11日にかけての二日間、長崎県佐世保市で第33回日本セトロジー研究会佐世保大会が開催されました。

日本セトロジー研究会第33回(佐世保)大会特設ページ 

日本セトロジー研究会(略称:セト研)は、おもに鯨類やその他の海棲哺乳類について、研究・普及・情報収集のためのネットワークをつくり、会員相互の交流と親睦を深める活動を展開しています。

第33回となる今年は、研究会として初めての長崎県での開催でした。大会の実行委員は長崎大学海棲哺乳類研究室です。同研究室は野生鯨類の生態調査やストランディング鯨類の調査など幅広く鯨類の研究を展開しています。また佐世保市にある水族館、海きららも協賛しており、参加者は会期中、水族館に無料で入れるようになっていました。海きららもスナメリやカブトガニ、クラゲなどの調査研究を積極的に行っています。

10日(土曜日)は無料聴講できる特別講演が行われ、平戸市生月町博物館の中園先生による捕鯨史の話、海きららの川久保先生による水族館での生物調査に対する取り組み、東京農業大学の小林先生による五島列島に生息する鯨類に関する講演が行われました。同日夜には懇親会も行われ、全国の鯨類研究者や水族館関係者、そのほか鯨関係の仕事、趣味を持つ方たちと交流しました。11日(日曜日)には研究会の会員達による一般講演が行われ、研究成果や活動の報告が行われました。

FSNも「富士ストランディングネットワーク 2022 年度活動報告」と題してポスター発表を行いました。発表内ではこれまでのストランディング鯨類対応の様子や、標本製作の方法、教育・啓発に関する取り組みを紹介しました。とくにストランディング対応に関して、FSNの持つ設備や資格者についてさまざまな水族館や他のストランディングネットワークの関係者からお褒めの言葉をいただきました。日本には地方大学や水族館、NPOを中心としたストランディングネットワークがいくつかあり、さまざまな理念のもと活動しています。セト研ではそのような他のストランディングネットワークの取り組みや創意工夫を見聞きすることができます。FSNも今後、ストランディング現場で技術を振るいつつ、いろいろな場で情報発信に取り組みたいと思います。



2023年4月4日 千葉県一宮町で発生したイルカ集団座礁にて、死亡したカズハゴンドウの運搬業務を行いました。

 4月3日、千葉県一宮町といすみ市にかけての海岸で、カズハゴンドウの集団座礁が発生しました。

種名:カズハゴンドウ Peponocephala electra
発見日:2023年4月3日(月)
座礁場所:千葉県長生郡一宮町東浪見 釣ヶ崎海岸
発見状況:約30頭が生きたまま座礁していた。
対応内容:発見直後から地元サーファーらによる沖出し作業が行われ、全頭が一旦は海に戻された。翌早朝の時点で少なくとも8頭が漂着しており、そのうち死亡が確認された6頭を国立科学博物館に運搬し解剖調査を行った。その後も複数の個体が死亡漂着し、町により埋設された。

 本件は多くのメディアで取り上げられたため、ご存知の方も多いと思います。複数頭のイルカやクジラが、同じ時に同じ海岸に打ちあがることをマスストランディング(集団座礁)と言います。集団座礁の原因にはさまざまな説(地形説、病気説、寄生虫説などなど)があり一つに絞ることは困難ですが、解剖調査や当日の気象条件をまとめていくことで、わずかながらでも原因解明につなげていくことができます。

 今回、FSNでは国立科学博物館の要請を受けて死亡した6個体の運搬を行いました。小型のイルカと言っても1頭あたり170kgもあるため、完全に打ちあがった鯨体を人力で運ぶのは困難です。今回は町からホイールローダーが出動し、FSNでユニック付きトラックをレンタルして運搬にあたりました。

 集団座礁の発生と対処に関して、さまざまなメディアでさまざまな言説が飛び交っています。「助けるべきか、自然に任せるべきか」という動物の生死を巡る話には、どうしたって正解を求めることは不可能でしょう。しかしどのような判断を下すにせよ、そこには科学的根拠と知識が不可欠です。この件についてはいずれ改めてまとめる予定です。



2023年4月2日 スジイルカの調査、骨洗い作業、花見を行いました。

 4月1日、西伊豆町宇久須港でスジイルカの漂着がありました。

種名:スジイルカ Stenella coeruleoalba
発見日:2023年4月1日(土)
調査日:2023年4月2日(日)
漂着場所:静岡県賀茂郡西伊豆町宇久須港内
性別:オス
体長:235.5cm
体重:142.5kg
発見状況:発見された時点で死亡していた。
対応内容:地元住民から下田土木事務所港湾課、下田海中水族館を経て連絡あり。1日に鯨体を回収してFSNに運搬した。翌日に国立科学博物館の研究者による学術調査われた。

もともと4月2日は骨洗い(標本作成のため水に晒している骨を洗浄する作業)と花見の予定だったのですが、1日にスジイルカが上がり、急遽「解剖 × 骨洗い × 花見」という盛りだくさんの日になりました。

昨年8月にHPを立ち上げ、ボランティアをはじめ多くの方からご協力をいただいてきました。ストランディングやクジラの研究に携わり、研究会や学習イベントなどにも参加してきました。今年度からネットワークとしての体制を整え、活動の継続に向けた助成金の獲得や成果報告に取り組んでまいります。皆様どうぞよろしくお願いいたします。



2023327-29日 「三宅島クジラ鼻水プロジェクト」の調査に参加しました。

 「三宅島クジラ鼻水プロジェクト」は、東京都三宅島で数年前から突如観察されるようになったザトウクジラを対象に、クジラの生態や地球環境に関する知見を得ることを目的としたプロジェクトです(三宅島クジラ鼻水プロジェクト )。本プロジェクトにFSN松本もドローン担当班の一人として参加しました。

 今回は悪天候や雨天時にも対応できるように、防水ドローンを導入しました。しかし昨年12月の調査に比べて明らかにクジラの数がすくない!どうやら三宅島での鯨シーズンは、12月から1月あたりがピークのようです。しかしそれも、年によって変わるかもしれません。

 二日+半日と限られた時間で、雨にも見舞われてしまいましたがなんとか一個体、ブローを採取することができました。これから研究班の方で、DNA解析が進められていきます。クジラは寿命が長いため、こうした生態調査は5年10年と長く続けていくことが重要です。来シーズンもまた島に来たいと思います。

2023年3月7日 静岡県牧之原市静波海水浴場に漂着したスナメリの学術調査を行いました。

 3月4日、牧之原市でスナメリの漂着がありました。

種名:スナメリ Neophocaena asiaeorientalis
発見日:2023年3月4日(土)
調査日:2023年3月7日(火)
漂着場所:静岡県牧之原市 静波海水浴場
性別:メス
体長:159.9cm
体重:32kg
発見状況:発見された時点で死亡しており、FSNの情報提供フォームから受報した。
対応内容:牧之原市農林水産課に報告し、鯨体の全身をFSNが引き取った。FSN敷地内へ搬入し解剖調査を行い、各種学術標本を採取して残渣は埋却処分した。

 スナメリは沿岸の浅い海域に生息し、伊勢湾・三河湾や千葉・茨城には多数生息していますが駿河湾には生息していないと考えられています。ストランディング事例も遠州灘(浜松、湖西)では何件か報告されていますが、御前崎より西側の駿河湾では2000年以降だと1件しか報告されていません(国立科学博物館ストランディングデータベースより)。

 情報提供フォームに通報を受けたときは「まさか!」と思いましたが、その後発見者の方に写真を見せていただきびっくりしました。あいにく諸事情で回収が遅れてしまいましたが、駿河湾でのスナメリ漂着という貴重な事例に対応できました。さらにこの個体は不自然と言えるほど痩せていました。発見時の写真を見ると胎盤のようなものがはみ出ており、分娩異常で死亡した可能性が考えられましたが、詳しいことは食害の影響で不明です。

 FSNの今後の課題として、やはり突発的なストランディングに対応できる人材の育成と交流があげられます。FSNには回収に必要な資材や車両は十分にそろっていますが、いかんせん人手不足。もしストランディングの回収に関わってみたいという方がおられましたら是非ご連絡ください。



2023年3月1日 静岡県賀茂郡西伊豆町に漂着したスジイルカの学術調査を行いました。

 2月28日、西伊豆町でスジイルカの漂着がありました。

種名:スジイルカ Stenella coeruleoalba
発見日:2023年2月28日(火)
調査日:2023年3月1日(水)
漂着場所:静岡県賀茂郡西伊豆町仁科 堂ヶ島マリン遊覧船乗り場付近
性別:メス
体長:218.5cm
体重:87.5kg
発見状況:堂ヶ島マリンから西伊豆町役場へ連絡あり。発見時点で死亡していた。発見場所近辺で処置困難なため、地元漁業者の協力により仁科漁港へ移動。
対応内容:下田海中水族館が鯨体を一時引き取り、その後FSNが引取った。FSN敷地内へ搬入し翌日に解剖調査を行った。各種学術標本を採取し、残渣は埋却処分した。

 スジイルカは比較的ストランディング事例の多い鯨種です。今回の個体は非常に鮮度が高かったため、研究者に病理解剖検体として調査していただきました。解剖の結果、重度の敗血症の症状が見られ、感染症により死亡した可能性が高いことがわかりました。病原体の特定などさらに詳しい分析のため、臓器や病変部位などの学術試料を提供し、FSNでは全身骨格を引き取りました。

 ストランディング個体でこれほど明らかな病気の個体が見つかることは実は珍しいです。野生動物もいろいろな病気にかかりますが、鯨類だと外洋で死亡してしまってそのまま海に沈んだり、死骸が漂着しても腐敗して病気であると判断できない場合が多いです。

 今後、全身骨格はFSNで標本化し、教育活動等に利用していく予定です。病気の検査結果と合わせて展示できるようにしていきたいと思います。



2023年1月14日 静岡県御前崎市に漂着したシワハイルカの学術調査を行いました。

 1月11日、御前崎市でシワハイルカの漂着がありました。

種名:シワハイルカ Steno bredanensis
発見日:2023年1月11日(水)
調査日:2023年1月14日(土)
漂着場所:静岡県御前崎市御前崎6071-5地先
性別:オス
体長:243.3cm
体重:約150kg
発見状況:御前崎交番から御前崎市役所環境課に、海岸にイルカが漂着しているとの連絡があった。同交番と同市の職員が現場確認したところ、イルカは既に死亡して腐敗していた。
対応内容:11日にイルカは市職員により現場の砂浜に埋設された。13日にFSNがイルカを掘り起こし、FSN作業場へと移送した。14日に学術調査と標本採取を行い、残渣は埋却処分した。

 シワハイルカは外洋性であまりなじみのない種ですが、太平洋沿岸ではストランディング事例がいくつか報告されています。今回の個体は腐敗が進行していましたが、頭部の形状からシワハイルカと同定しました。発見当日に埋設されていましたが、学術調査のために回収し、FSN倉庫で調査、解剖ののち、所定の届け出をして標本を採取しました。本調査には複数の大学の学生さんも参加し、それぞれの研究目的のために標本を採取していきました。腐敗した鯨体でも、目的に応じてさまざまな研究に利用でき、それによってイルカ達のさまざまな知見が得られます。鯨類学の将来を担う若い学生さんたちの熱意に負けないよう、FSNも精進してまいります。


本個体の調査風景は以下のリンクからご覧いただけます。イルカの生物学的理解を目的とした学術的な動画ですが、解剖など刺激の強いシーンが含まれます。ご理解の上、ご視聴ください。

youtu.be/FzlYRFOBF8g 

2023年1月6日 FSNが調査協力したストランディング個体の試料を使った論文が公開されました。

 FSNが以前に調査協力(鯨体の運搬、解剖場所の提供、解剖残滓の埋設)を行ったストランディング個体から採取したサンプルをつかった研究が、論文として公開されました。

https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S2213224423000019

 「International Journal for Parasitology」という寄生虫学分野の国際学術雑誌です。オープンアクセスという、誰でも無料で閲覧、ダウンロードできる形式で公開されています。全文英語です。

 論文の大まかな内容 人がホタルイカを生で食べると、旋尾線虫という寄生虫の幼虫に感染することがあります。この旋尾線虫の成虫が、アカボウクジラ科鯨類の腎臓に寄生するクラシカウダ線虫の一種、Crassicauda giliakiana であることが遺伝子解析からわかりました。この寄生虫はアカボウクジラ科の中でもツチクジラ、オウギハクジラ、アカボウクジラに寄生しています。またイチョウハクジラとコブハクジラからは別の遺伝子配列をもつクラシカウダ線虫が見つかりました。

 FSNも謝辞(Acknowledgement)の欄に、他の研究機関や個人、団体とともに名を連ねています。ストランディング鯨類は貴重な研究材料になります。骨格だけでなく脂皮や筋肉、各種臓器の他、寄生虫なども鯨類の生態や人間との関りを教えてくれます。
 FSNでは研究者向けに、さまざまな研究サンプルの提供や解剖調査の協力も行っています。

2023年1月5日 静岡市清水区三保の海岸に漂着したハンドウイルカを調査しました。

 1月4日、静岡県静岡市清水区三保でハンドウイルカの漂着がありました。

種名:ハンドウイルカ  Tursiops truncatus
発見日:2023年1月4日(月)
調査日:2023年1月5日(火)
漂着場所:静岡県静岡市清水区三保地先
性別:オス
体長:233cm
体重:約150kg
対応内容:死骸が海岸に漂着、発見時点で腐敗していた。翌日に東海大学の研究者と合同調査し、県土木事務所と打ち合わせの上、残滓は現地に埋却した。

 ハンドウイルカは水族館でもおなじみのイルカで日本近海にも多数生息していますが、ストランディング例は意外に少ないです。今回の個体も腐敗は進んでいましたが貴重な研究材料になるとのことで、東海大学海洋学部の教授や学生さんたちとともに調査しました。
 詳細な外部計測ののち解剖し、研究に有用な部位をサンプルとして採取しました。FSNでは全身骨格を標本用に採取し、さらにDNAや環境汚染物質の分析用に脂皮や筋肉を採取し国立科学博物館に送付しました。